合理的に、みんなができることは違いにならない

私たちはAI活用を仕事にしていて、社内でもできる限り使っています。
だから、AIがどれだけパワフルかは肌で分かっています。

市場調査も、議事録も、資料作成も、プログラミングも
以前の何分の一かの時間で一定の水準までつくれるようになりました。

SNS広告も、分析からクリエイティブ制作、入稿、配信、効果の最適化まで、
かなりの部分が自動で回る世界が見えています。

先に使い始めれば先行優位ですし、コストも確実に下がります。
一方で、もう一つ感じていることがあります。

AIは、便利ではあるけれど、それ自体では「差異」を生みにくいということです。

同業他社も、隣の会社も、同じAIを使えます。しかも低コストです。
同じ情報を集め、同じ問いを投げ、同じように効果やスピードを追求していけば、
出てくる答えは似ていきます。
AIでできるようになったことは、やがて強みではなく、前提になります。

安い、早い、正確。そうした合理的な価値はもちろん重要です。
ただ、それだけでは会社の違いをつくりにくくなっていくのだと思います。

人は、違いのあるものを選ぶ

AIがいくら進化しても、選ぶ側である人間の事情はそこまで変わりません。
人間の認知能力や身体性はそこまで進化しません。
使える時間も、身体も、一人分しかありません。

眠る布団は一枚ですし、収納できる量にも限界があります。
時間は一日24時間で、見られる映画の本数も、読める小説の数も、
訪れられる場所の数も限られています。

どれだけお金があったとしても、すべてを持つことはできません。
だから人は、数ある選択肢の中からどれかを選びます。
そして選ばれるためには、何らかの違いが必要になります。

では、AIによって合理的な価値が当たり前になっていく時代に、
その違いはどこから生まれるのでしょうか。

違いは、価値観から生まれる

私たちのお客様に、ネット通販を営む会社さまがあります。
このような業態では一般的に、
できるだけ電話での問い合わせを減らしていく方向に進みます。

電話対応は、人の時間を使うからです。
FAQやチャットボットで解決できる問い合わせまで人が対応するのは、
効率だけを見れば合理的ではありません。

しかし、この会社は電話を受け続けています。
電話で話すことで、お客様がどんな状況にあり、何に困っているのかが分かる。
だから、その人に合った提案ができる。
そのため、お客様からの問い合わせそのものをAIに置き換えることは「意図的に」しません。

(もちろん、問い合わせ履歴を整理したり、
担当者がより良い提案をするために裏側でAIを使うことはできます。)

効率だけを切り取れば、電話対応は非合理に見えます。

しかし、提案、信頼、購入、再購入まで含めた顧客との関係全体で見れば、
それは決して非合理ではありません。
むしろ、その会社だからこそ成立する合理性があります。

その会社が何を大切にしているのか。

何に時間を使い、何には時間を使わないのか。
そこに、その会社の価値観が表れます。

楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』には、
こういう趣旨のことが書かれています。

優れた戦略には、一つひとつを切り取ると、一見非合理に見える判断が含まれている。
しかし、それらが一つのストーリーとしてつながったとき、
全体として合理的になり、他社には簡単に真似できない違いになる。

では、そのストーリーをつくる非合理は、どこから生まれるのでしょうか。
私は、そこには分析だけではたどり着けないものがあると思っています。

多くの会社が同じ情報を持ち、同じAIを使い、
同じように合理性を追求するほど、似ていきます。

だから、最後に違いを生むのは、
「普通ならやらない。でも、私たちはやる」
「普通ならやる。でも、私たちはやらない」

という類の判断です。その判断の元にあるのは、
何を優先し、何を後回しにするかという価値観です。

もっと言えば、経営者の好き嫌いかもしれません。

「これは大切にしたい」
「これはやりたくない」
「ここには時間を使いたい」
「この人たちの役に立ちたい」

そうしたものは、必ずしも短期的な損得から
生まれるわけではありません。
そして、その判断が一度きりではなく、
何年も行動として積み重なることで、

「この会社なら、こうする」

という一貫性が生まれます。
その一貫性が、やがて信頼になり、ブランドになっていくのだと思います。

家業を継いだ方なら、心当たりがあるかもしれません。
採算だけを見れば、やめた方がいい先代からの事業を続けている。
効率だけなら都市に出た方がいいのに、この土地に残っている。

選んで始めたことではないかもしれません。
責任感からかもしれません。
それでも、今も続けているのは、自分の判断です。

その判断に一貫性が宿り、持続可能な事業としての
ストーリーを描くことができたとき、

「この会社は、こういう会社だ」

というブランドの輪郭が生まれます。

経営とは、意志を持って資源の流れをつくること

AIが進化すると、合理的な判断はますます速くなります。

どこに広告費を使えばいいか。
どの商品を伸ばせばいいか。
どの業務を自動化すべきか。
どの顧客を優先すべきか。

さまざまな場面で、より精度の高い答えをAIが出してくれるようになります。
あらゆる資源は、より合理的な場所へ、より速く流れていくでしょう。

だからこそ、これからの経営には、
別の役割が生まれるのではないかと思います。
合理性だけなら流れない場所に、

「それでも、ここに人を使う」
「それでも、ここにお金を使う」
「それでも、この仕事を続ける」

と意志を持って資源を配分することです。

もちろん、非合理であればいいわけではありません。
持続できない事業を精神論だけで続けることとも違います。

むしろ重要なのは、一見すると非合理に見える判断を、
会社全体のストーリーの中で持続可能な合理性へ変えていくことです。

電話対応を続けるなら、その分高い信頼や再購入につなげる。
地方に残るなら、その土地にいるからこそ生まれる価値を事業に変える。

経営とは、差異を意図的につくり出し、
その差異に資源を流し続け、新しい価値を生みだすことなのかもしれません。

そしてデジタルもAIも、そのための手段としてこそ
大いに活用できると私たちは確信しています。

私たちの価値観

私達の会社のある山梨県も人が減り続け、エンジニアもデザイナーも
簡単には見つからない地域だからこそ、一人ひとりの力を大きくしたい。
働く一人ひとりが、プロとして誇りを持って仕事ができる環境を
つくりたいと考えています。

そのうえで私たちにも一つ、意図的に選んでいることがあります。

それは、地方の会社を支援することです。
市場の大きさだけを見れば、
大きな予算を持つ会社を追いかける方が合理的かもしれません。

それでも私たちは、人が減っていく未来に、
地方の会社が強く、しなやかに成長できることに、
自分たちの資源を投資します。

地方の会社がなくなれば、地域の仕事がなくなります。
地域の仕事がなくなれば、そこに暮らし続ける選択肢も減っていきます。
だから、地方の会社の力になりたい。共に未来を創りたい。

これは、最も合理的な市場選択ではないかもしれません。
でも、私たちはそこに資源を使うと決めています。
そして、その判断を持続可能な事業として
成立させることが、私たちが対話を通じて創り出した経営戦略です。

AIでできることは、これからどんどん増えていきます。
そして、その多くはやがて前提になります。

だから最後に残るのは、

「何ができるか」ではなく、
「何のために、それを使うのか」。

そして、

「それでも、うちはこうする」

という価値観、「違い」なのだと思います。