1. はじめに

C-tableでは、段ボール製造業の株式会社ユーシン様の生産管理システムを開発・運用支援しています。

同社の受注業務でとりわけ負担が大きかったのが、大口のお客様からの受注登録です。このお客様からの受注は 全受注の約3割 を占めており、注文書はPDFで頻繁に届きます。届くたびに事務担当者が注文書を読み、自社の製品IDを特定し、生産管理システムへ1件ずつ手入力する——この繰り返しが、日々の業務時間を圧迫していました。

この業務に、AI-OCRによる注文書PDFの自動読取・受注登録機能 を生産管理システムに組み込んだところ、従来1時間以上かかっていた登録作業が10分程度で終わる ようになり、現場からは「とても楽」「間違いがない」という声をいただいています。本記事では、その仕組みと設計判断を紹介します。

以前のコラム「その伝票、誰かが1件ずつ打ち直していませんか」で紹介した「転記を『入力』から『確認』に変える」というアプローチを、実際の製造業の基幹業務に適用した事例です。


2. 背景:受注登録のどこが大変だったのか

導入前の業務フローは次の通りです。

お客様から注文書PDFが届く
    ↓
担当者が注文書を1明細ずつ確認
    ↓
品名などから自社の製品IDを検索・特定
    ↓
生産管理システムへ手入力で受注登録
    ↓
図面準備のため、登録内容を手作業で並べ替え・整理

負担の中心は3つありました。

1. 製品IDの検索・特定
注文書に書かれているのは先方の管理情報であり、自社の製品IDと1対1で対応づける作業は担当者の記憶と検索頼みでした。

2. 件数の多さ
全受注の約3割を占める明細を1件ずつ入力するため、まとまった時間が定常的に取られます。従来は 20件ほどの登録に1時間〜1時間15分 を要していました。

3. 転記ミスのリスク
手入力である以上、数量や納期の打ち間違いは避けられません。受注登録の誤りは生産・納品にそのまま波及するため、確認の神経も使います。

さらに、事務担当者の体制縮小が見込まれるなか、同じやり方を続けること自体が難しくなりつつありました。


3. 仕組み:PDFをアップロードすると「確認一覧」ができる

導入後のフローはこう変わりました。

注文書PDFを生産管理システムへアップロード
    ↓
AIが製品ID・注文番号・数量・納期などを自動抽出
    ↓
納期が近い順の「確認一覧」に反映(納期フィルターで絞り込み可)
    ↓
担当者が読取結果を確認し、チェックした明細のみ一括登録

PDFの解析にはLLM(Gemini)を利用しています。フォーマットの決まった帳票を座標指定で読む従来型OCRと異なり、LLMベースのAI-OCRは明細の並びや記載の揺れに強く、注文書から必要な項目だけを構造化して取り出せます。

実運用に向けては、業務ルールをシステム側に埋め込む細かな作り込みを重ねました。

  • 注文書右上の日付を「受注日」として自動設定
  • 「シート発注日」はユーシン様の業務ルールに基づき納期から自動算出
  • 「製品出荷予定日」は納期(受け渡し期日)と同日に自動設定
  • 同一の注文番号・受注日・製品による二重登録を検知するチェック
  • PDFから取得した注文番号をこのお客様向けの納品書へ自動出力し、転記作業を廃止
  • 登録後は顧客・納期で絞り込み、製品ID順の一覧・帳票を出力できるようにし、図面準備の並べ替え作業も削減

AI読取そのものより、こうした「読み取った後、業務にそのまま流し込むための設計」が、実務で使われるかどうかを分けます。


4. 効果:1時間超の登録作業が10分程度に

導入後、実際に運用しているご担当者へのヒアリングでは、次の効果を確認できました。

項目 導入前 導入後
登録作業の所要時間 20件で1時間〜1時間15分 同規模の処理が10分程度で完了
製品IDの検索・特定 明細ごとに手作業 AIが自動判定、人は確認のみ
納品書への注文番号転記 手作業 自動出力で廃止
図面準備のための並べ替え 手作業 製品ID順一覧を自動出力

人の作業が「1件ずつの入力」から「読取結果の確認」に変わったことで、従来1時間〜1時間15分かかっていた登録作業は 10分程度 で終わるようになりました。ご担当者からは 「とても楽」「間違いがない」 という評価をいただいています。同じ製品の注文をまとめて確認しやすくなったことで、入力ミスの防止にも効いています。

全受注の約3割を占める規模で毎月続く業務ですから、1回あたりの短縮は年間で大きな時間の創出につながります。現在は数日分の処理時間・件数を記録し、月間の削減時間として定量化を進めています。


5. 設計の勘所:100%自動化を目指さない

本件でも、住所突合の事例と同じ設計思想を貫いています。AIで100%自動登録することを目指していません。

AIの読取精度は高いものの、100%ではありません。受注登録の誤りは生産計画・納品にそのまま波及するため、登録前に人がチェックする工程を必ず残し、担当者が確認・承認した明細だけをシステムに反映します。

人の作業を「入力」から「確認」へ変える。これにより、

  • 作業時間は大幅に減らしつつ、
  • 最終判断の責任は人に残り、
  • AIの読取ミスがあってもその場で気づける

というバランスが取れます。基幹業務にAIを組み込む際、私たちはこのハイブリッド構成を基本形としています。


6. 今後:他顧客への展開とAIエージェントへ

このお客様分の受注自動化で効果を確定させたうえで、次のステップを予定しています。

  • 他顧客への横展開:FAXで届く他社の注文についても、PDFで受領できるよう調整し、同じ仕組みで受注登録を効率化
  • データ整備:原価データの整備・登録ルールの明確化を進め、経営分析に耐えるデータ基盤へ
  • AIエージェント連携:生産管理システムにMCP接続機能を追加し、案件数の確認・在庫不足の抽出・Slack通知など、AIエージェントによる実務支援へ発展

受注登録の自動化は、それ単体で完結する施策ではなく、「紙・手入力に縛られていた情報をデータとして流れる状態にする」 第一歩です。データが整えば、その先のAI活用の選択肢が一気に広がります。


7. まとめ

  • 全受注の約3割を占める大口顧客の注文書PDFの受注登録を、AI-OCRで「入力」から「確認」へ転換
  • 1時間超かかっていた登録作業は10分程度に。転記ミス防止・納品書転記の廃止・図面準備の効率化にも波及
  • 人の確認工程を残すハイブリッド設計で、基幹業務に求められる確実性を担保
  • 次はFAX注文への展開と、MCP経由のAIエージェント活用へ

C-tableでは、既存の基幹システムを活かしながら、紙やFAXに残る業務をAIで滑らかにつなぐ支援を行っています。「うちの注文書でも読めるのか試したい」という企業様は、帳票を数枚お預かりして実際の読み取り結果をお見せすることも可能です。お気軽にお問い合わせください。


本事例についてのお問い合わせは、C-tableまで。