「画像が作れる、資料が作れる」の先へ

「AIで画像が作れるようになった」「提案書の下書きが一瞬で終わる」。

そんな声が日常になって久しい。これまで人の手と時間を割いていた作業を、AIが軽やかに肩代わりしてくれる。それ自体は素晴らしい変化だ。

だが、会社の営み全体を見渡したとき、そこで起きた変化の多くは「個人の作業スピードの向上」にとどまっている。便利な道具が手に入り、一人ひとりの手元は速くなっても、業務の流れや事業そのものの形は変わっていない。photoshopがAIになっただけであればインパクトは限られる。

それを裏付けるデータがある。パーソル総合研究所の調査(2026年)によれば、生成AIによってタスク単位の所要時間は平均16.7%減少している。しかし、実際に全体の業務時間が減った人はわずか4人に1人。削減できた時間の多くは、日常の業務に再び使われている。

AIを「個人の便利な道具」として使うだけではなく、「会社の仕事そのもの」へのインパクトを出すには、AIの使い方をもう一段進めて考える必要がある。

価値は「1つ目」ではなく「100個目」にある

では、会社の仕事そのものを組み替えるAIの使い方とは、どこにあるのか。

私は、AIの本質的な価値は「1つ目を作れること」だけではなく 「100個目をほとんど手間なく作れること」 にあると考えている。

たとえば、1店舗のキャンペーン告知を100店舗へ展開する場合。従来なら、店舗ごとに条件を差し替える作業が100回必要だった。しかし今は、ベースの構成さえあれば、100店舗それぞれの文脈に最適化した告知を一度に生成できる。

これまでの仕事の大半は、件数が増えれば手間も同じだけ増える「線形(リニア)」な構造をしていた。AIを業務に組み込む本質は、この「比例」を断ち切る点にある。手間を増やさずに成果だけを拡張する「非線形(ノンリニア)」な構造へ作り替えること、すなわち、業務にスケーラビリティ(拡張性)を宿すことだ。

振り返れば、コンピューターを仕事に導入するとは、本来そういうことだった。一度プログラムを組んでしまえば、処理する対象が1件であっても1万件であっても、人がかける手間は「1回」で済む。給与計算や請求書の発行がシステム化されたときも、件数が増えるたびに人が同じ計算や転記を繰り返す必要がなくなった。

しかし、これまでのコンピューターが扱えたのは「決まった書式のデータを、決まったルールで処理する仕事」に限られていた。

そのため、メールや紙で届いた情報を読み取り、システムに入力する。別々のシステムから出したデータを突き合わせ、報告書にまとめる。処理そのものは自動でも、その前後を人間が1件ずつ補っている。システムが動いてくれるのは「整ったデータが入った後」だけであり、その入り口とつなぎ目には、相変わらず件数に比例する人間の手作業が張り付いていたのが中小企業の実態だ。

生成AIは、表現や書式の「揺らぎ」を含む情報を扱いやすくした。従来なら個別の開発や細かなルールづくりが必要だった仕事にも、自動化の選択肢が広がっている。その結果、これまで手作業を残さざるを得なかった現場でも、「件数に比例しない仕組み」を作れる範囲が広がっているのである。

ボトルネックを見立てる

この視点で社内を見渡すと、これまで想定し得なかった仕事にも、組み替えられる余地が見えてくる。

たとえば、複数店舗の数値を精査するスーパーバイザー(SV)の巡回や、店長が日々の数字把握に追われるマネジメント業務の一部など、「店舗が5つ増えるごとに管理者を増やす」といった当然視されてきた間接コストの比例構造すらも、AIで組み替え得る時代に入っている。

もっとも、すべての業務を効率化すればいいわけではない。狙うべきは、「件数に比例しており、かつ事業のボトルネックになっている業務」だ。それを見つけるには順番がある。

まず、事業とビジネスモデルを理解する。誰に、何を、どうやって届けて利益を得ているのか。次に、その価値を届けるまでの業務の流れを描き、「店舗の数だけ」「帳票の枚数だけ」「顧客の数だけ」同じ作業を繰り返している場所を探す。そのうえで、現状と事業を広げようとしたときのボトルネックを見極める。典型的なのは次の二つだ。

  • 受注量や事業拡大の天井になっている場所(例:見積もりや初期の提案作成が追いつかず、商談の機会を逃している)
  • 間接コストが肥大化している場所(例:店舗が増えるほど、本部の集計や確認作業という管理コストが重くのしかかる)

仕組みを動かす「3つの土台」

「100個目を手間なく作る」には、AIを置くだけでは不十分だ。3つの土台が欠かせない。

1. 元になる「1つ目の型」:
AIは最初の案を作ることもできる。だが、その案が自社らしいか、顧客に届ける品質に達しているかを決める基準は、自社で持たなければならない。何を必ず伝え、何を変えてよく、何を変えてはいけないのか。型は、そこから100通りを切り出すための設計図だ。設計図が粗ければ、粗いアウトプットが100個並ぶだけに終わる。自社の美学や判断基準を凝縮した型を研ぎ澄ます重要性は、むしろ高まっている。

2. 整った「正しいデータ」:
営業時間や価格、商品情報など、事実の正確さが必要な情報は、更新・管理する仕組みを持つ。計算や照合など、決まったルールで処理できる部分は、従来のプログラムに任せる。システムが正しい情報を管理し、AIが用途に応じた表現や構成を生み出す。この役割分担が骨格となる。

3. 確認(チェック)の仕組み:
100件自動で作っても、人間がすべてを一から目視確認していては、確認作業が次のボトルネックになる。ルールで判定できる部分はシステムで確認し、条件から外れたものや判断が難しいものを人に回す。自動確認だけでは拾えない問題には、業務の重要度に応じた抜き取り確認などを組み合わせる。

生成だけでなく、品質を確かめる工程まで含めて、人の手間が件数に比例しにくい設計にする必要がある。

あえて「比例させたままにする」仕事

一方で、あえてAIで効率化してはならない領域もある。

顧客とじっくり言葉を交わして背景をくみ取る提案や、SVや店長が現場のスタッフと直接向き合う対話。そうした「あえてかけている手間」こそが信頼を生み、選ばれる理由そのものになっていることがある。そのような時間は、事業が広がっても大切にしたい。

たとえば、SVの仕事でも、数値の集計と現場の対話では、手間をかける意味が違う。集計や事前の状況把握を仕組みに委ねることで、現場で話を聞き、一緒に考える時間を厚くできる。大切なのは、「比例を断ち切る仕事」と「比例させたまま残す仕事」を、自らの意志で見極めることだ。

前者をAIと仕組みに委ねるからこそ、人間は本当に時間を注ぐべき後者の仕事、そして「型」を磨き上げる仕事に、まっすぐ向き合えるようになる。

私たちはどう向き合うか

私たち自身も同じだ。

システムを作るために、提案書をつくるためにAIという道具は使うが、お客様や現場と深く向き合い、ディスカッションを重ねる人的工数は、むしろ以前よりも増えている。対話で見えた判断基準や組み立て方は「型」として残し、次の提案やシステムでAIが繰り返し使えるようにしている。

AIで何ができるかを調べることは、もはや難しくない。本当に面白いのは、「自社のどこにこの構造を組み込めば、景色が変わるのか」を見立てることだ。日々の業務を見つめ直し、型を磨き上げる取り組みを、私たちも現場の真っ只中で続けている。

自社の場合はどこからその糸口を解くべきか。そこから一緒に考えることが私たちの仕事だ。いつでも声をかけてほしい。

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田邉 耕平(たなべ こうへい)
C-table株式会社 代表取締役

山梨県都留市出身。ソニーグループ、Webコンサルティング企業、エムスリーでデジタルマーケティングとプラットフォーム開発に携わる。2016年に都留へUターンし、2017年にC-tableを設立。地方の中小企業や自治体に、AI導入・システム開発を通じた業務や事業変化を伴走支援している。一般社団法人まちのtoolbox 理事。

参考:生成AIを仕事で使っても、なぜ私たちは忙しいままなのか(パーソル総合研究所 田村元樹氏、日本の人事部)https://jinjibu.jp/article/detl/hr-survey/4061/