先日、DXやAI活用をご一緒している取引先の社長と話していたとき、ふとこんな問いを投げかけられました。
「うちの会社は試行錯誤しながら前に進んでいる実感があるけれど、どうして他の会社はそんなにDXやAIが進まないの?」
自ら現場に立ち、会社を変えようと汗を流している経営者だからこその、率直で本質的な疑問でした。
世の中にはこれだけ「DX」や「AI」という言葉があふれ、便利なサービスも増えました。それなのに、なぜ多くの地方中小企業では思うように変革が進まないのでしょうか。私は2つの要因があると感じています。
地方中小企業を阻んできた「IT業界のエアポケット」
変革が進まない大きな要因は、そもそもIT産業自体のビジネスモデルにあります。企業がシステムを導入しようとするとき、これまでの選択肢は実質的に2つしかありませんでした。
ひとつは、月額数千円から手軽に使えるSaaS(クラウドサービス)です。機能は洗練されていますが、「同じ仕組みを何千社・何万社に提供する」モデルである以上、基本的には業務側をシステムに合わせる必要があります。「うちのやり方に合わないから変えてくれ」という個別要望には、ビジネスモデル上対応できません。
もうひとつは、自社の運用に合わせて一から作る受託開発です。これなら思い通りの仕組みが作れますが、本格的に開発すれば〜数千万円の投資になり、開発後の保守費用も重くのしかかります。
汎用ツールでは拾えないほど自社固有の事情がある。しかし、数千万円かけて開発する規模でもない。地方中小企業が長く取り残されてきたのは、まさにこの「市場のエアポケット」でした。
このエアポケットを生み出していた根底には、IT業界全体の「エンジニア不足」があります。どれだけ需要があっても開発工数を確保すること自体が難しく、どうしても高コストになる。結果として、IT業界側も「最大公約数のSaaS」か「大規模な受託開発」というモデルをとらざるを得なかったのです。
これまで多くの中小企業の現場は、この隙間をなんとか自力で埋めてきました。既製のパッケージソフトを導入しながら、足りない部分をExcelやAccessで補い、システムから出力された数値を別のシートに打ち直す。もはや直せない複雑なマクロを、だましだまし使い続ける。本来、仕事を楽にするはずのITが、かえって無駄な事務作業や属人化を生んでしまう。現場の我慢と力技でその歪みを吸収してきたのが実態でした。
「安く作れる」ようになっても、会社が変わらない理由
この行き止まりを突き崩したのが、生成AIの登場です。
生成AIやローコードツールを組み合わせれば、以前なら開発会社に頼まなければ作れなかったツールを、安く、早く作れるようになりました。スタートアップや個人事業主でも自前でツールを生み出せるようになり、市場のエアポケットは確かに埋まり始めています。
しかし、現場に立ち続けていると、ツールが手に入っても会社が変わらない、別の本質的な理由が見えてきます。
それがもう1つの理由。
「安く作れるようになった」ことと、「会社が変わる」ことは別問題である、ということです。
どれほどAIで手軽にツールが作れるようになっても、「誰かが作ったシステムを、現場はただ渡されて使う」という受け身の構図が変わらなければ、変革は起きません。これは外部の開発会社に頼む場合だけでなく、社長自身がAIを使いこなして便利なツールを現場に配る場合でも全く同じです。
現場が「決められた仕組みの中で作業をこなす側」に留まっている限り、「そもそもこの業務は本当に必要なのか」「顧客の変化に合わせて仕事の流れを見直すべきではないか」といった問いは生まれません。
どんなに安く最新のシステムを組んだところで、完成した瞬間に陳腐化が始まります。AIのモデルは数ヶ月単位で進化し、使いやすい新しいサービスが次々に生まれ、会社の事業環境や取引先の状況も変わり続けます。
変化の激しい時代に本当に必要なのは、固定された「システム」という完成品ではありません。事業や顧客の変化に合わせて、自社の業務や組織そのものを現場目線でアップデートし続ける「変革の営み」なのです。
現場の「仕方ない」が、「変えられる」に変わる瞬間
では、何が変われば会社は「変革の営み」を始めるのでしょうか。
私たちがDXやAI活用の伴走をする中で、変化を確信する瞬間があります。それは、最新のシステムが完成したときではありません。現場の方から、「これって、もっとこう変えられませんか?」という言葉が出た瞬間です。
「昔からこう決まっているから」「紙じゃないと回らないから」と諦めていた仕事に対して、「自分たちの手で変えていいんだ」「もっと良くできるんだ」と気づく。この認知の転換が起きたとき、現場から次々と自発的な問いや提案が生まれ始めます。
「この二重チェック、本当になくせませんか?」
「ここを自動化できたら、もっとお客様への対応が早くなりますよね」
DXが誰かに押し付けられたプロジェクトではなく、「自分たちの手で会社を良くしていく営み」に変わる。仕組みを変え、役割を見直し、時には当たり前だった業務そのものをやめる。そうした小さな気づきが日常の仕事の一部になって初めて、現場が自発的に業務をアップデートしていくサイクルが回り出します。AIもデジタルも、そのための手段に過ぎません。
社外を巻き込み、「アップデートし続けるチーム」をつくる
この営みはどうやって続けていけばよいのでしょうか。
社内に専門部署を立ち上げる余裕はなく、社長ひとりで背負い込むのも限界がある。それならば、社外の仲間を巻き込んで「ひとつのチーム」をつくればいいのです。私たちはそのための外部パートナーとして価値を見込んでもらえているのだと感じます。
日頃のちょっとした疑問やアイデアは、Slackなどのチャットツールを通じて気軽に投げ合える。そして何より、すぐ会いに行ける距離にいるからこそ、直接現場へ足を運び、机の上の伝票や現場の空気感を肌で感じながら同じ目的をもったチームとして話ができる。これが私たちの強みです。
関わり方はいたってシンプルです。
まず、聞くこと。
経営者が目指す未来と、現場が日々感じている困りごと。その両方を同じテーブルに並べ、対話を通じて進むべき方向性を揃えていきます。
次に、小さく作って、アップデートし続けること。
最初から完璧を目指さず、まずは60点の完成度で小さく形にして現場で使ってもらう。現場から「ここが使いにくい」「これも足したい」とリクエストをもらいながら、手直しを重ねていきます。
この試行錯誤を繰り返すことで、現場にとってシステムは「上から降ってきた完成品」から、「自分たちの成長に合わせて、いくらでもアップデートしていける道具」へと認識が変わっていきます。
人口減少の時代だからこそ、仕事を作り直す
「地方の中小企業が魅力的になり、若い人材が誇りを持って活躍する未来をつくること」に、私たちの存在意義はあります。
人口が減り、採用が難しくなる現実は変えられません。だからこそ、10人いなければ回らなかった仕事をそのまま放置するのではなく、無駄を削ぎ落とし、人にしかできない仕事に時間を移し、一人ひとりの生み出す付加価値を引き上げていく必要があります。
そして何より、現場で働く人たち自身が 「自分たちの仕事は、もっと面白く、もっと良くできる」 と実感し、自らの手で仕事をアップデートできている会社は強いはずです。そうした誇りと活気のある会社が地域に残るからこそ、若い世代にとっても「ここで働きたい」と思える魅力的な選択肢が生まれます。
「IT人材がいないから仕方がない」
「現場が変わらないから仕方がない」
「社長が一人で背負うしかない」
そうした諦めの中に留まり続ける必要はありません。問うべきは「どのシステムか」ではなく「自社をアップデートし続けていくチームをどうつくるか」なのだと思います。
私たち自身もまた、そうした「アップデートし続けられるチーム」でありたいと強く思っています。技術も環境も目まぐるしく変わる中で、過去のやり方や固定観念に安住せず、私たち自身の関わり方や提案のあり方を日々見直し、進化させていく。
経営と現場、そして志を共にする外部の仲間がひとつのチームになり、お互いにアップデートを重ねていく。その先にこそ、地方の会社が力強く未来へ生き残る道があると信じています。
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田邉 耕平(たなべ こうへい)
C-table株式会社 代表取締役
山梨県都留市出身。ソニーグループ、Webコンサルティング企業、エムスリーでデジタルマーケティングとプラットフォーム開発に携わる。2016年に都留へUターンし、2017年にC-tableを設立。地方の中小企業や自治体に、AI導入・システム開発を通じた業務や事業変化を伴走支援している。一般社団法人まちのtoolbox 理事。