AIもシステムも、まずは対話から -正しさだけでは、進まない-
「まずは対話から」は、手順の話ではない
C-tableのサイトの一番上には、「AIもシステムも、まずは対話から」と掲げています。
ただ、これは「まず会議をして、それからAIを導入する」という手順の話ではありません。これは、主語の話です。
会社を動かし、社会やお客様に価値を届けるのは誰か。その答えは「人」です。AIもシステムも、その人たちを支えるための手段です。
しかし私たちは、最初からこう考えていたわけではありません。
自分たちの失敗を通して、この考え方にたどり着きました。
社長の要望は正しかった。それでも現場は使わなかった
ある製造業の会社でのことです。
その会社は、一品一様のものづくりをしています。
社長は、より正確な見積もりと粗利率を出したいと考えていました。
そのために、案件の見積もりと原材料、そして工程ごとの管理と工数入力、生産管理のスケジュール、さらに「誰が何に何時間かけたか」を一つのシステムで管理したい。ミーティングで出されたこの要望をもとに、私たちは開発を進めました。
社長の考えは正しかったと、いまでも思います。
案件ごとの正確な粗利率が分かれば、今後の値付けも、受ける仕事の選び方も、今後の投資判断も変わります。経営として当然の要望でした。
私達自身も案件ごとの工数登録をしていますので、違和感はありませんでした。
ところが導入後、現場から「業務の流れに合っていない」という声が上がりました。
特に負担になったのが、工数の入力です。現場の皆さんが毎日、パソコンやスマートフォンから細かく実績を入力する運用は、想像以上にハードルが高いものでした。
システムが現場のためのものではなく、負担になってしまっていたのです。
私たちが囚われていた「DXの型」
ミーティングには、現場の方も参加していました。ですから、「現場の声をまったく聞かなかった」わけではありません。
問題は、私たちがどのような前提で話を聞いていたかでした。
当時の私たちは、DXとは、世の中のベストプラクティスを取り入れ、現場の業務をシステムに合わせて標準化していくものだと考えていました。
その「型」に、自分たち自身が囚われていたのです。
システムを入れるだけで現場が変われるのなら、とっくに変わっているはずです。変えられないのには、理由があります。
業務そのものが複雑であること。長年続けてきたやり方の中に、現場なりの知恵や価値があること。働く人によって、ITリテラシーが違うこと。
それらを単なる「抵抗」と捉え、正しいやり方を押しつけることもできます。しかし、号令だけで変化を定着させることはできません。
私たちは、経営として正しい要望を、論理的に正しい仕組みにしました。それでも、プロジェクトは思うように進みませんでした。
正しさだけでは、進まない。
大切なのは、正しい仕組みをつくることだけではなく、現場の方たちと一緒に、現実的に、どうやったら生産性を上げていけるかどうかを一緒に考え、合意し、段階的に取り組むことでした。
経営者と現場は、違う景色を見ている
もう一つ、サービス業の会社での話です。
社長は、営業スタッフの対応品質を高めるため、営業対応へのフィードバックツールをつくりたいと考えていました。
ところが、従業員の皆さんにインタビューをすると、
出てきたのは「マニュアルを整備してほしい」など別の言葉でした。
社長と従業員の、どちらかが間違っているわけではありません。
会社全体を見渡して将来を考える社長と、目の前の業務に向き合う現場とでは、見えている課題も、優先順位も違います。ただ、それは聞いてみるまで分かりません。
現場との対話は、経営者が意思決定を手放すことではありません。
最終的に決めるのは、経営者です。
ただし、聞かなければ分からない現場のリアルを踏まえて判断するのと、踏まえずに判断するのとでは、その後の進み方が大きく変わります。
対話とは、意思決定を曖昧にすることではなく、意思決定に必要な解像度の高い情報を集め、その質を上げることです。
対話とは、何をすることか
こうした経験から、私たちはプロジェクトの進め方を変えました。
ワークショップやヒアリングには、経営者だけでなく、実際に業務を担う現場の方にも参加していただきます。
まず、プロジェクトが何を目指しているのかを共有する。AIでどんなことができるようになるのか?を共有する。そのうえで、それぞれの現場から、日々の困りごとと「本当はこうしたい」を拾い上げる。それを一覧にし、解決の方向性と優先順位を整理して、経営者と合意しながら一つずつ進めていきます。
私たちが「対話」と呼んでいるのは、この一連の取り組みです。
対話には、少なくとも三つの役割があります。
一つ目は、経営者が何を目指しているのかを、関係者の共通認識にすることです。
DXやAIは、「やらなければならない」という空気から導入が決まることがあります。それ自体が悪いわけではありません。
しかし、「どんな会社にしていきたいのか」「何のために取り組むのか」が共有されていないと、「AIでこんなことができる」という施策アイデアだけが先に走ってしまいます。
二つ目は、経営者と従業員の課題認識には、ずれがあるかもしれないと最初から考えておくことです。
社内システムを実際に使うのは、多くの場合、従業員です。経営者が方向性を示すことと、従業員がその目的を理解し、無理なく使えること。その両方がそろって、初めて仕組みが機能します。
三つ目は、現場では「当たり前」になっている課題を見つけることです。
紙の情報をシステムに打ち直す。同じ内容を複数の場所に登録する。担当者しか分からない手順が残っている。
毎日その業務をしている人ほど、それを疑問に思わなくなります。
そもそも、改めて話す機会もありません。
対話の時間をつくると、「なぜ、こうしているのだろう」「ここはもっと簡単にできるかもしれない」というアイデアが、現場から驚くほど出てきます。
社長の一存だけで仕組みを入れると、現場にとっては使いにくく、
仕事が増え、やがて使われなくなることがあります。
一方で、現場の意見だけを聞いていては、
会社が目指す方向からずれてしまう可能性があります。
だからこそ、経営者が方向性を示し、
現場のリアルを聞き、議論して、進め方を決める対話が大事です。
AIは、現場を無理に変えなくて済む道具になった
従来のDXでは、システムに合わせて業務を標準化することが多く求められました。
しかしAIを使えば、変える必要のない部分まで無理に変えず、
人のやり方にシステムを近づけることができます。
たとえば、紙やFAXで届いた注文書を、
人がシステムへ入力している業務があるとします。
以前であれば受発注自体をシステム化する必要がありました。
しかしAIが紙の注文書を読み取り、必要な情報をシステムに渡せるようになれば、
FAXを使う現場の運用まで無理に変える必要はありません。
例)
受注登録を1時間から10分へ短縮、作業時間83%削減 — 段ボールメーカー・ユーシン様のAI-OCR導入事例
現場の人に新しい入力作業を求めるのではなく、
これまでのやり方の中からAIが情報を拾う。
IT操作に慣れていない方も、それまでの経験や仕事の進め方を活かしたまま働けます。
私たち自身も、打ち合わせを録音し、AIが内容を文字に起こすのはもちろん、
そこからタスクを整理して管理システムへの登録もAIにしてもらったり、
ということを日常的に行っています。
私たちが囚われていた型を、AIが外してくれたとも言えます。
それでも、AIが先に来るわけではありません。
AI自身が、その会社のお客様に、社会に価値を届けたいと
願っているわけではないからです。
会社には、それぞれの存在意義があります。お客様への価値提供を通じて社会に貢献する。
その為に自分たちが持っているリソースを活かし、育てていく。
価値を生み出したいという意志を持ち、考え、実際に動くのは人です。
「対話の時間がない」と言われたら
対話が大事なのは分かる。でも、うちは人数も少なく、毎日の仕事で手いっぱいだ。
まずAIを入れて、少しでも楽になりたい。
その気持ちは、本当によく分かります。私たちも数人の会社です。
日々の業務に追われ、会社の未来を考える時間を十分に取れないことがあります。
まず小さな部分だけAI化する、というのも有効なアプローチです。
ただ、従業員の時間も、経営者自身の時間も、会社の大切な資産です。
限られた時間を何に使い、どう成果につなげるか。それは、経営の意思決定そのものです。
最初から大がかりな会議をする必要はありません。
経営者と現場が同じテーブルにつき、話す時間を確保する。そこから始められます。
その時間を、私たちはワークショップという形で一緒につくっています。
https://workshop.c-table.co.jp/
経営者と現場の方が同じ場に集まり、
今のAI技術でどんな事ができるのか。
自社ではどうしていきたいのか。その為に何が課題なのか、
どういう順番で解決していきたいか、言葉にする。
この対話の時間そのものが、すでにプロジェクトです。
事業、組織、業務、そして働き方を、AI時代に向けてシフトさせていく。
その意思決定のもとで、会社の中に「小さな時間投資」を作る。それは経営の判断です。
私たちができるのは、その時間を、価値のあるものにし、
具体的なカタチにしていく伴走支援です。
AIもシステムも、まずは対話から
正しさだけでは、進まない。
社長も正しい。現場も正しい。だからこそ、まずは対話から。
是非、まずは私たちと、お気軽にお話してみませんか。