OVERVIEW
概要
- 組織/分野
- 都留市(上下水道課)/ 自治体・市民サービス(水道の開栓・閉栓)
- 地域
- 山梨県都留市
- つくったもの
- 公式LINEから水道の開栓・閉栓を申請し、電子決済まで完結できるオンライン申請システム(利用者・職員・作業員の3つの画面)。さらに、申請住所と水道マスタの照合を、ベクトル検索とLLMの2段構えで自動化するAIの仕組み
- もともとの課題
- 開栓・閉栓は来庁または郵送が原則で、職員は情報を1件ずつ手入力、作業員は紙を頼りに現地へ。繁忙期は窓口に長蛇の列。オンライン化の後も、住所の表記揺れで自動照合が約1%にとどまり、約99%が手作業だった
- うれしい変化
- 申請から決済までLINEで完結(来所不要・時間外可・キャッシュレス)/繁忙期の長蛇の列が解消/休日対応の日数を半分に/住所の自動照合 約1%→約80%/職員の手作業 約99%→約20%/確認 3〜5分→約1分
- 効果が見えるまで
- 2023年にオンライン申請・決済を開始。繁忙期を越えて効果が明確に。2025年にAI照合を追加
- 期間
- 2023年〜運用・保守を継続。2025年にAI照合を追加
- この先
- オンライン利用率のさらなる向上、職員側の業務改善、住所照合の他業務への応用を検討
SUMMARY
まとめ
▶ きっかけ/課題
水道の開栓・閉栓は、契約にあたる手続きで来庁または郵送が原則。職員は情報を1件ずつ手入力し、作業員は紙の申請書を頼りに現地へ。学生の引っ越しが集中する時期は、窓口に長蛇の列ができていました。LINE申請の後も、住所の表記揺れで自動照合は約1%にとどまり、約99%は職員の手作業でした。
▶ 取り組み
まず、公式LINEから申請・電子決済まで完結できる仕組みを構築(2023年)。作業員向けの端末画面も整えました。その後、住所の表記揺れに対応するため、住所をベクトル化して候補を絞り、LLMが最終判定する“2段構え”のAI照合を導入。判断が難しいものは人に戻す設計にしています。
▶ うれしい変化
来所せず、時間外でも、キャッシュレスで手続きが完結。繁忙期の長蛇の列が解消し、休日対応の日数は半分に。住所の自動照合は約1%→約80%、職員の手作業は約99%→約20%、確認は3〜5分→約1分になりました。
BACKGROUND
市民は来庁が必須、職員は手入力、作業員は紙を頼りに現地へ
引っ越しや入退去のたびに必要になる、水道の開栓・閉栓。以前の都留市では、手続きは窓口への来庁か郵送に限られていました。水道の開閉は契約にあたる手続きで、電話では記録(証票)が残らないため、来庁が原則だったのです。手数料の支払いも窓口で、閉栓のときには未納分の精算も発生します。とりわけ、都留文科大学のある都留市では、毎年3月に学生の引っ越しが集中します。そのたびに市役所を訪れる負担は小さくなく、繁忙期の窓口には長蛇の列ができ、待ち時間が生じることもありました。
窓口の職員にも、負担がありました。市民から受け取った申請書の内容を確認し、水道栓の情報を検索して、利用者情報を手で入力する。すべて手作業で、入力ミスの心配もあります。窓口対応と並行してシステム入力もこなす必要があり、繁忙期の業務は重くなっていました。
現場で開閉作業を行う作業員も、同じでした。紙の申請書を見ながら現地へ向かいますが、住所だけでは場所が分かりにくく、迷うこともあります。作業後はメーター情報を紙に記録し、持ち帰ってからシステムに入力する。市民・窓口職員・作業員のそれぞれに、紙と対面に頼る負担がかかっていました。
WHY C-TABLE
なぜ、C-tableに声がかかったのか
都留市の公式LINEを「デジタル市役所」へ育てていく取り組みは、C-tableが継続して伴走してきました。開閉栓のオンライン申請も、その一つです。じつは当時(2023年ごろ)、水道の手続きをオンラインやLINEでできる自治体は、山梨県内でもほとんどありませんでした。前例の少ない取り組みを、一緒に形にしていきました。
大切にしたのは、「全部を作り替えないこと」でした。うまくいっている部分はそのままに、いちばん効く一点だけを解く。既存のシステムを大きく変えずに、市民と職員、そして作業員の負担を軽くする。そんな進め方をご提案しました。
APPROACH
まず基盤をつくり、現場の声とデータで、形を変えていく
① LINEで、申請から決済まで完結する(2023年)
市民は、公式LINEから24時間いつでも開栓・閉栓を申請でき、手数料の支払いもオンラインで完結します。決済はキャッシュレスに対応し、クレジットカードやPayPayなどが使えます。申請データはそのままシステムに記録されるため、窓口の職員は管理画面で内容を確認し、水道料金の計算システムへ引き継ぐ流れに変わりました。
現場の作業員向けの画面も整えました。申込情報をタブレットやスマートフォンで確認でき、現地への案内も画面に表示されます。メーター情報の入力も端末で完結するので、紙に書いて持ち帰る手間がなくなりました。
現場の声が、設計を変えた
開発の途中、現場の声が設計を変えた場面がありました。当初、管理画面には、作業員それぞれに割り当てられた未完了のタスクだけを表示する予定でした。ところが、「他のメンバーの状況も見たい」という声が。理由を伺うと、作業員どうしがお互いの進捗を見ながら、助け合って動いていたのです。そこで、チーム全体の作業状況を一覧できる形に変えました。使う人と一緒につくる—その積み重ねが、現場になじむ仕組みにつながっています。
② 使ううちに見えた「住所照合の壁」を、AIで(2025年)
LINE申請が動き始めると、次の課題が見えてきました。市民が入力した住所と、水道マスターに登録された住所が、ほとんど一致しないのです。自動で結びつくのは約1%。残る約99%は、職員が申請のたびに住所を目で照らし合わせ、お客様番号を手作業で特定していました。
原因は、住所の表記揺れです。全角と半角、ハイフンの種類、丁目と数字、建物名や棟・号室の書き方、スペースの有無—人が見れば同じ住所でも、文字列としては一致しません。ルールで揺れを網羅しようとすると、例外処理が際限なく増えてしまいます。
そこで採用したのが、ベクトル検索とLLMを組み合わせた2段構えです。水道マスターの全住所をあらかじめベクトル化しておき、申請が届くと、似ている候補を高速に絞り込む。その候補をLLM(大規模言語モデル)が見て、意味的に最も合う一件を判定します。候補を絞る工程と、最終判断の工程を分けることで、精度とコストのバランスをとりました。
すべてをAIに任せない、という設計も大切な判断でした。信頼度が低いものは、これまでどおり職員の確認に回します。水道の開閉栓は、誤りが許されない業務です。約8割を自動化し、残る約2割は人が確かめる。この線引きが、自治体の業務に求められる確実性との、ちょうどよいバランスでした。
つくって終わりにしない、伴走
2023年の稼働後も、C-tableは運用・保守を続けてきました。今回のAI照合や、現場の声を受けた画面の変更のように、使いながら見えてきた課題に、必要な進化を重ねていく。それが、長く使えるデジタル窓口につながっています。
RESULTS
うれしい変化は、市民も職員も作業員も、“待たない・探さない”に近づいたこと
長蛇の列 → 解消
繁忙期の窓口
休日対応の日数も半分に
約1% → 約80%
住所の自動照合率
AIで表記揺れを吸収
約5分 → 約1分
住所照合の確認時間
職員の手作業が大幅減
申請から決済までがLINEで完結し、市民は市役所に足を運ばなくてよくなりました。時間外でも申請でき、決済もキャッシュレス。現金を持っていなくても手続きを終えられます。特に、甲府地区や県外の遠方から入学してくる学生にとっては、これまで郵送しかなかった手続きがオンラインでできるようになり、大きな助けになっています。
窓口では、繁忙期の長蛇の列が解消しました。学生の引っ越しが集中する3月末の一週間も、以前ほど混み合わなくなり、休日の開栓対応の日数は半分に。人件費や経費の面でも負担が軽くなっています。
職員側では、AI照合の導入で、申請住所からお客様番号まで自動で結びつく割合が大きく増えました。手で突き合わせる件数は約99%から約20%に、1件あたりの確認は3〜5分から約1分に短縮。これらは、既存のシステムを大きく作り替えることなく、必要なところにAIを足すことで実現しています。
オンライン申請の割合は、繁忙期で約7割、通年では約25%まで拡大しました。「もっと上げていきたい」という声もいただいており、認知が広がるほど、さらに伸びる余地があります。
INTERVIEW
「来なくていい、時間外でもできる」—長蛇の列も、なくなりました
オンライン化の手続きについて、都留市 上下水道課のご担当者に、お話を伺いました。
繁忙期を過ぎて、市民の皆さんの反応はいかがでしたか?
これまでは原則、窓口に来ていただいて手続きをしていました。まず、その「来る」手間と時間が減った、というお声をいただいています。市役所は少し特別な場所で、あまり来たくないという方もいらっしゃいますし、市内でも遠い方、県外から来られる方もいます。来なくていい、時間外でもできる—そこは大きいと思います。
窓口とオンラインは併用ですね。どのように案内していますか?
併用です。お電話をいただいたら、「オンラインもありますよ」とご案内して、スマホやインターネットが使える方にはやっていただく。案内すると、皆さん意外とやってくださいますね。それでも難しい年齢層の方は、窓口に切り替えることもあります。
システムは、土日や回線の都合で、申し込みから中3日ほど空けていただく設計にしています。ゴールデンウィークや年末年始のトラブルを防ぐためで、カレンダーで選べないようにしてもらいました。「今日開けたい」という方には別で対応しますが、そうしたご要望は繁忙期以外だと2か月に1件ほど。稀ですね。
特に利便性を感じているのは、どんな方ですか?
やはり学生さんです。市内の方より、甲府地区や県外の遠方から入学して来る方が多くて。遠方だと、ここまで来るのに1時間かかることもあります。以前は郵送しか対応できなかったので、オンラインでできると助かる、という声をいただいています。
よく寄せられる質問や、改善のご要望はありますか?
学生さんはすんなりできるのですが、中高年の方だと、まずサイトにたどり着けるか、その次に入力ができるか。水道は必要な項目が多いので、慣れていないと難しい、という声はあります。
あとは、申請が完了したかどうかを自分で確認したい、という方が多くて。完了の通知がLINEに届くようにしてもらったので、「メッセージが届きますので、ご確認ください」とお伝えしています。
繁忙期の長蛇の列など、変化はありましたか?
これは顕著でした。並ぶことが、なくなりました。3月末の、鍵の受け渡しが集中する一週間は特にすごかったのですが、そこが緩和されて。休日の開栓対応も、以前は並んでいましたが、そんなに並ばなくなり、件数自体も明らかに減っています。おかげで、もともと開けていた休日対応の日数を、半分にできました。
市民の皆さんに、特に喜ばれている点は?
キャッシュレス決済ですね。開栓・閉栓は手数料がその都度かかるのですが、オンラインだと現金でなくても、クレジットカードやPayPayなどで払えます。窓口だと、お財布を忘れて駐車場に戻る方もいらっしゃったので(笑)。現金を持っていなくても完結できるのは、利便性が高いと思います。
「来なくていい」「時間外でもできる」—市民の負担が軽くなり、窓口の列も、休日の対応も、目に見えて減りました。オンライン申請の割合は、繁忙期で約7割、通年では約25%。「もっと上げていきたい」という声もいただいており、認知を広げる余地はまだあります。次は、職員の皆さんの業務がさらに楽になるところへ。使いながら、一緒に育てていきます。