OVERVIEW

概要

組織/分野
都留市消費者安全確保地域協議会・都留市高齢者等SOSネットワーク(合同研修)/高齢者見守り・消費者被害防止
地域
山梨県都留市
参加者
金融機関・郵便局・警察・社会福祉協議会・市役所各課の窓口担当者 18名
利用サービス
研修ワークショップの設計・ファシリテーション
やったこと
寸劇×作戦会議型の研修「令和8年度レベルアップ研修」(150分)を、市・チームふじやま(認知症看護認定看護師)と一緒に設計・進行
もともとの課題
窓口で認知症が疑われる方が訪れた際、声のかけ方・つなぎ先に迷う場面がある
うれしい変化
全グループが、自分たちで考えたセリフで寸劇を演じきった/全グループが「1年後も住み慣れた家で暮らすつる子さん」を描いた/機関を越えた連携のきっかけが生まれた/研修直後のアンケートでは「気づく・声かけ・つなぐ」の全設問で、回答者全員が肯定的に回答
開催日
2026年9月4日(金)

SUMMARY

まとめ

▶ きっかけ/課題

高齢のお客さまの「いつもと違う」に最初に気づけるのは、日々接している窓口の方々。ただ、認知症が疑われるお客さまを前にすると、つい通常の手続きどおりに進めてしまい、声のかけ方・つなぎ先には迷いも多くありました。

▶ 取り組み

架空の83歳「つる子さん」の来店シーンを結末を見せずに寸劇で提示し、認知症の方に接する際の5つの視点の講義→作戦会議→参加者自身の寸劇発表へとつなぐ150分。“自分で演じてみる”ことで、通常の手続きから一歩立ち止まり、ご本人の立場に立った対応と地域への連携につなげやすくする——そんな仕掛けを、都留市の担当者、チームふじやまとの対話を通して設計しました。

▶ うれしい変化

同じ台本から4グループ4様の対応が生まれ、全グループが「1年後も住み慣れた家で暮らすつる子さん」を描きました。研修直後のアンケートでも、「気づく」「声かけ」「つなぐ」に関するすべての設問で、回答者全員が肯定的に回答しています。

BACKGROUND

何度も同じ手続きに来られる、あるお客さま

「カードの暗証番号を忘れてしまって」——窓口に立つ方なら、一度は出会ったことのある場面かもしれません。手続きそのものはいつも通り終わる。でも、今月これで何度目だろう、と少し気にかかる。

高齢のお客さまと日々接する金融機関・郵便局・市役所などの窓口は、変化に最初に気づくことのできる大切な存在です。一方で、窓口の仕事は正確さとスピードが求められるからこそ、認知症が疑われるお客さまにも、つい通常の手続きどおりに接してしまいがちです。気づいたとしても、どのように声をかければよいのか、どこへ相談し、どうつなげばよいのか、迷う場面も少なくありません。

都留市では今回、消費者安全確保地域協議会と高齢者等SOSネットワークが合同で、窓口担当者向けの「レベルアップ研修」を開催しました。今回のテーマは、認知症のお客さまへの「気づく・声かけ・つなぐ」。通常の手続きから一歩立ち止まり、ご本人の立場に立って対応し、地域への連携につなげる——その転換が明日の窓口で起こせるようになることを目指しました。

WHY C-TABLE

なぜ、C-tableに声がかかったのか

ご相談をいただいた当初から、研修の形が決まっていたわけではありません。市民課・長寿介護課が感じていた窓口の課題と、認知症看護の専門家であるチームふじやまの知見を、どう一つの研修に結びつけるか——そこから一緒に考えるところが、出発点でした。

C-tableには、認定ワークショップデザイナーの資格を持つ、ワークショップ設計の専門家がいます。その強みは、完成したプログラムをお渡しすることではなく、関係者との対話を通して課題とゴールを整理し、参加者が自分で考え、ことばにし、行動を試せる「場」を設計すること。今回もC-tableが担ったのは、認知症について教える役割ではありません。市の担当者やチームふじやまとの対話を重ねながら、専門家の知見を「窓口でどう動くか」という体験に翻訳していきました。

設計で大切にしたのは、参加者の状態に合わせて、階段を上るようにステップアップできる流れです。初対面同士が、いきなり人前で演じるのは難しいもの。だからまず自己紹介で場をあたため、講義で5つの視点という道具を受け取り、付箋で考え、セリフのことばにして、最後に演じてみる——一段ずつ上がっていけるように組み立てました。

その階段の先に置いたのが、「自分が演じてみた経験が、実際の対応をしやすくする」という仕掛けです。頭で分かっていても、窓口で最初のひとことはなかなか出てきません。一度でも窓口役としてつる子さんに向き合い、自分のことばで声をかけ、地域へのつなぎ方まで考えておく。その体験が、次に本物の場面に出会ったとき、一歩立ち止まって動く後押しになると考えました。

こうして、導入寸劇、専門職による講義、グループでの作戦会議、参加者自身による寸劇発表をつないだ、150分のプログラムができあがりました。

STORY

83歳「つる子さん」の来店から始まる

研修の幕開けは、チームふじやまによる寸劇です。主人公は架空の83歳、「つる子さん」。都留市で一人暮らし、社交的でいつも笑顔。2年ほど前から、ご本人も「何かおかしい」と感じています。

そんなつる子さんが、銀行の窓口にやってきます。「お金が下ろせないんです。機械は問題ないですか?」——窓口役は席を外して機械を確かめ、同僚にも確認し、「機械は故障していないので、おそらく暗証番号が違うようです」と伝え、窓口でのお手続きの案内までします。業務としては、丁寧で正しい対応です。

それでも、「どうしても今日、お金を下ろしたいのよ」というつる子さんの困りごとは、解決されないまま。寸劇は結末を見せずに、ここで止まります。「皆さんなら、どのように対応しますか?」——手続きとして正しい対応の、その先。一歩立ち止まったら何ができるかを、この日みんなで考えていきます。

続く講義では、チームふじやまの認知症看護認定看護師が、認知症の方と接する際の5つの視点——本人理解・状態理解・感情理解・コミュニケーション・意思尊重——について話がありました。「暗証番号のような数字は思い出しにくくなっても、感情の記憶は残る。だから窓口の声のかけ方や表情が、そのまま安心につながる」。記憶のしくみから対応のヒントまで、つる子さんに引きつけた解説が続きました。

あみだくじの役割決めから、セリフづくりまで——“作戦会議”の50分

後半は、4グループに分かれての作戦会議です。ワークは階段を上るように、4つのステップで進みます。

  • ステップ1 あみだくじで役割決め(進行役・窓口役・同僚役・上司役・朗読役)
  • ステップ2 5つの視点で、「つる子さん」のことを理解する
  • ステップ3 穴埋め式の台本に、自分たちのセリフを書き込む
  • ステップ4 「1年後のつる子さん」の物語を、穴埋めでつくる

セリフをいきなり考えるのではなく、まず5つの観点でつる子さんの気持ちや状態をじっくり想像する——ご本人の立場に立ってから、ことばを選ぶという順路にしました。台本はつる子さんのセリフをあらかじめ決めた穴埋め式で、考えるのは「第一声」「確認のことば」「同僚の後押し」「上司への相談」の4つ。そして台本の幕切れは、上司に相談し、つなぎ先を決めるところまで考えてもらう形にしました。対応をひとりで抱えず、地域への連携までを演じて体験する流れをつくりました。

同じ台本から、4つの物語が生まれた

発表は、グループごとの寸劇です。台本を手に、窓口セットの前へ。つる子さん役はチームふじやまが務め、グループが考えたセリフに、その場のアドリブで応えていきます。

興味深いのは、同じ場面設定から4グループ4様の対応が生まれたことです。一緒にATMまで行って操作を確かめるグループ。ご家族への連絡を提案するグループ。地域包括支援センターへの情報提供につなぐグループ。「お孫さんにお金を渡したい」という言葉から、万が一の詐欺被害の可能性まで気を配ったグループもありました。どのグループも、導入の寸劇では届かなかったつる子さんの困りごとに向き合って一歩立ち止まり、自分たちなりの対応と、つなぎ先までを演じきりました。

発表の締めくくりは、「1年後のつる子さん」の朗読と、それに対する「つる子さん本人」からの返事です。

「皆さんがもし怒っていたら、私はすごく感じ取ってしまうんです。今日対応してくださった方は、とても優しくてよかった」

「受付の方が、私の目をきちんと見て説明してくれて、わかりやすかったです」

自分が演じた対応に、当事者の目線から返事が返ってくる。ご本人の立場に立てていたかどうかが、その場で手応えとして伝わる場となりました。

INSIGHT

うれしい変化——全グループが描いた「1年後も、住み慣れた家で」

4グループの「1年後の物語」には、共通点がありました。全グループが、つる子さんが住み慣れた家で暮らし続ける未来を描いたのです。家族や地域包括支援センター、見守りの目に支えられ、「最近は友達と旅行にも行ってきたそうです」と語ったグループもありました。窓口のひとことから地域の連携へ——研修が目指したつながりを、参加者自身が物語として描いたことになります。

「詐欺被害の可能性にまで気を配る視点は、まさにこの協議会で開く意味のあるところ。私自身も勉強させていただきました」(講評・都留市長寿介護課より)

正解のない問いを扱う研修です。「結局どうすればよかったんだろう」というモヤモヤは、あえてそのまま持ち帰ってもらう設計にしました。一度“窓口役”としてつる子さんを演じ、じっくりその方のことを考えて対応した経験は、次に窓口で「あれ?」と思ったとき、手を止めてご本人の背景を想像し、対応へ踏み出す後押しになっていくと考えています。

研修の振り返りでは、チームふじやまから「グループワークにつる子さん役が入ることで臨場感があった」「初対面同士でも、最後にはチームの一体感ができていた」という声をいただきました。また、参加した金融機関と市の担当課の間では、早くも日常の相談・連携につながる会話が生まれています。

この手応えは、研修直後のアンケート(回答率50%)にも数字としてあらわれています。「気づく・声かけ・つなぐ」に関する全設問で否定的な回答はゼロ。役立ったプログラムには全員が「つる子さんの事例・導入実演」を挙げ、合同研修の継続も回答者の全員が「必要」と回答しました。

INSIGHT

研修で生まれたつながりを、日常の連携へ

当日はテレビ局・新聞社の取材も入り、研修の様子は当日夕方のニュースでも紹介されました。

窓口の「あれ?」という小さな気づきが、一歩立ち止まる勇気になり、見守りの輪へ自然につながっていくように。C-tableはこの取り組みに、長期的な支援ができればと考えています。